定期借家制度について

日本の賃貸住宅でファミリー向けの物件の供給が少ない理由として、日本の借地借家法に、戦中戦後の住宅不足に応じて借主を保護した規定の名残がいまだにあり、「正当な事由」がない限り貸主から解約できない規定があることを指摘したが、この問題を解決するために、2000年に定期借家制度が導入され、賃貸借について一定の期聞を定め、期間が終了すれば契約が更新されない仕組みが新たに採用された。この制度は賃貸市場で一定の成果をあげている。

首都圏での賃貸物件の登録データを見ると、定期借家物件の割合は、マンションでは低いものの、二戸建てでは高くなっている。一戸建てにおける割合は、12年の東京都下では3%にも達する。

マンションでの割合は、09年の東京都下で2・7%にすぎず、アパートでの割合はさらに低い( 12年の東京都下で1・5%)。一戸建てにおいては、もはや定期借家は珍しいものではなくなっていることを示している。

二戸建てで定期借家の割合が高く、しかも上昇傾向にある点は、近年、転勤の際に持ち家を賃貸に出すほか、転居・移住の際に、空き家を賃貸に出す例が増えていることとも関連していると考えられる。

次に、定期借家物件の属性を見ると、定期借家は普通借家に比べて、床面積が広く、単位面積当たりの家賃が低いという特徴を持っている。

なお、単位面積当たりの家賃は、都区部と神奈川県のマンションでは、定期借家のほうが高くなっているが、これは、都心のタワーマンションなど高級賃貸物件が定期借家契約によって供給されていることによるものと思われる。定期借家の平均契約期間は、二戸建てで平均4年程度と短いものとなっている。

以上から、定期借家制度は、住宅の面積、家賃面では制度導入時に期待された効果(良質な物件をより安く供給)を発揮していると考えられるが、契約期間は短いものにとどまっていることがわかる。定期借家自体は二戸建てを中心に普及してきたものの、長期・割安な定期借家物件が登場していないことが、現在の定期借家制度の問題の一つであるといえる。


長期契約が行われない理由

賃貸住宅の新たな需要に応えるためには、良質な賃貸住宅の供給が増えていくことが必要になるが、最近ではすでに述べたように、証券化手法を活用して、良質な賃貸住宅を供給する例が現れている。

このほかの新たな動きとしては、団塊世代の引退が本格化する中、現在保有する住宅から別の住宅への住み替えや移住(都心部、田舎など)が活発化すれば、空いた住宅が良質な物件として、賃貸市場に登場するようになることも期待されている。

このように最近の住宅市場においては、需要、供給面から賃貸住宅の活性化が期待できる機運が高まりつつある。ここで注目したいのは、賃貸住宅市場を今後さらに活性化させていく上で、契約面の制度が従来のままでいいのかという問題である。

すでに述べたように、定期借家制度はこうした問題に応える形で導入された。定期借家制度は、住み替えや移住の際に、一時的に保有する住宅を賃貸するという場合にも有効と考えられ、今後、賃貸市場を活性化させていく上でも重要な役割を果たしていくことが予想される。

ただ一方では、現行の定期借家制度が導入されてすでに叩年が経過しており、制度上、不都合と考えられる点も少なからず顕在化するようになっている。特に問題と考えられているのは、現行制度において、やむを得ない事情(転勤や親族の介護など)があれば、借主の中途解約権が認められているという点である(床面積200平方メートル未満の住宅の場合)。

定期借家制度によって契約した物件

中途解約権は強行規定であり、特約の有無を問わず排除することはできない。これにより、家主にとっては、定期借家制度によって契約期間中、確実に物件を貸したいと思っても、中途で解約されるリスクが残ることになる。

このため、長期契約を前提とした家賃の割引が行いにくいという問題点が指摘されている。借主にとっては、契約の途中でやむを得ない事情が生じた場合には解約できるメリットはあるが、その代わり、長期間借りたいと思っている場合に、より割安な条件で借りられる機会を逸しているということになる。

一方、中途解約権の存在は、賃貸住宅建設資金を証券化の形で調達する場合にも、少なからず障害となる。投資家から資金調達する場合には、できるだけリスクを排して、将来物件から得られるキャッシュフローを確定できたほうが望ましいが、この観点からは、契約の中途で空室になるリスクを残す中途解約権は排除できたほうが望ましいことになる。現実に市場においても、将来のリスクとして中途解約権の存在が認識されている。

国土交通省のアンケート調査によれば、長期の定期借家が普及しない理由として、「200平方メートル未満の住宅は中途解約権が認められ、長期契約を結んでも空室リスクが減るわけでもない」と回答した事業者が58・9%を占めている(国土交通省「定期借家制度実態調査」前年)。

中途解約権排除の必要性

これまで述べてきたことをまとめると、定期借家は契約期聞が長くなるほど、普通借家に比べて割安な家賃を設定しにくくなっているが、これは家主に将来生じるリスクを反映していると考えられる。

リスクとして考えられるのは中途解約権の存在である。このように、賃貸住宅においては、他のサービスとは異なり、長期契約を前提とした割安な供給を行いにくくなっているという現状がある。

中途解約権の排除が可能になれば、家主にとってのリスクがなくなるため、10年なら10年の問、確実に借りてもらうことを前提とした、割安の供給が可能になると考えられる。

あるいは、必ずしも中途解約権を排除しなくとも、借主が中途解約する場合には、借主に相応の違約金を支払うことをあらかじめ決めておくことができれば、同様の効果を発揮させることができると思われる。

こうした措置が取られた場合、借主にとっては、中途解約の自由度は失われるものの、契約期間の問、割安な家賃で借りることができるというメリットが得られることになる。このように、中途解約権の制限は、家主、借主の双方にメリットをもたらす。

一方、証券化によって賃貸住宅を建設しようとする場合には、中途解約権が制限できるようになれば、将来のキャッシュフローをより明確にできるメリットがある。これは資金調達者、投資家の双方にメリットをもたらすことになる。

ここで諸外国の制度を簡単に見ておくと、米英などでは、借主の中途解約権を特約によって排除できるようになっている(定期借家推進協議会〈2004〉による)。この結果、割安家賃による20年超の長期契約が広く普及している。

また、アメリカではREIT組み入れ物件で、賃貸住宅がオフィスを上回っているが、中途解約権の排除によるキャッシュフローの確定が証券化の前提として機能している。以上から、今後の日本においても、中途解約権の排除、または、中途解約を行う場合の違約金の支払いを契約に盛り込めるようにすることが望ましい。不動産・空き家の売却査定については、一括査定が便利です。

現行の定期借家制度でも、面積が広く割安な家賃の物件を供給するという効果はある程度発揮されているといえるが、なお短期の定期借家契約にとどまっているという難点があり、今後、長期の契約を増やしていくためには、こうした措置が必要となる。これは、今後賃貸住宅市場をさらに活性化させるための条件の一つにもなると考えられる。